明日を思う、明日を願う

自動ドアの向こう側は灼熱のようだった
あまりの暑さに思わず声が出た

駐車場へ向かう道に人はまばらで
すれ違う人は大きな荷物を持っていた

私の出てきた大きな総合病院は
誰でもおいでと手招いているようで
それでいて一切を拒むかのようにそびえ立っていた

甲高い声が聞こえて視線をやれば
父親と手を繋いだ女の子がいた
ぴょんぴょんとスキップをするように歩く女の子
ワンピースの裾がふわりふらりと揺れる
父親を見上げる横顔が眩しくて
繋いだ手と手が時折跳ねる
誰かのお見舞い帰りだろうか

飛ぶように歩く女の子
楽しそうに繋いだ手を振る父と子

たまらなくなって
私は視線をそらして俯いた

とても、やせ細った手だった

あんなに大きくて力強かったのに
ベッドで寝たまま目も開けず
触れた手のあたたかさでまだ生きているのだと実感した

父は
忙しくて厳しい人だった
よく怒られたしたものの褒められることは少なかった
一緒に出掛けた記憶もほどんどない

一度だけ
家族で動物園に行ったことがある
私は転んで泣いて
わんわんわんわん泣いて
そんな私を父は抱きあげてくれた
そのまま肩車をしてくれて
自分の視界よりずっとずっと高い場所からの眺めが
ものすごく綺麗で息をのんだ

とても、やせ細った手だった

私を抱き上げ肩車をしてくれた手は
病院のベッドでひっそりとあった

先ほどの父と子を思った
あんな風に
あんな風だったのだろうか
多分、違う
けれど
あの時の手の温かさはきっと今でも、ある

明日も来よう
目は覚めないかもしれないけれど
両手でぎゅっと父の手を握ろう

とても、やせ細った手を

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