或る罪人の一幕

君が笑うたびに僕は思い知らされる君からあいつを奪ったのは僕なのだと何も知らぬ無垢な手は汚れた僕を浄化するかのようにのばされるあのね、と舌足らずのお喋りに応える僕は何者だろう小さな君は僕に絶対の信頼を置き、そして呼ぶ「おとーしゃん」握りしめた…

そんな紙一重

お疲れさまと縋る手がむしょうに気持ちが悪かったお前が求めているのは私じゃないだろいつまで私を身代わりにすれば気が済むの聞いたこともない猫なで声で私を呼び慣れない手つきで私を抱く帰って来てくれると信じていた、なんて大嘘をつきお前がいないとダメ…

立ち直るための儀式。

トイレの便器にゲーゲー吐いた。ゴミ箱に捨てられなかった愛憎が、体を逆流して吐瀉となる。喉が焼け付くようにヒリヒリする。丸めて捨てられたらどんなにどんなに楽だっただろう。食べるのはあんなにも簡単で楽しいものなのに、吐くのはどうしてこうも辛いの…

だから、存在しない。

そう、思い出して。私が私であった頃、あなたは間違いなくあなたでその腕の中はどんな世界よりも幸せだった。私が壊したあなたは、私だけを見て好きだよ好きだよとうわ言のように繰り返す。あなたが私を壊さないのは、あなたが私を憎んでいるから。壊れてゆく…

思考高速遅々

今考えていることをそのまま形にしてくれる機械があればいいのに一生懸命書き留めようとするのに私の手は遅くてどんどんどんどん思いついたことが消えていくもったいないもどかしい今も浮かんだ言葉を書き留めようとするが間に合わない浮かんで消えて捕まえそ…

あなたを選んだわけじゃない

あなたを選んだわけじゃない 偶然あなたがいただけあなたはただそこにあっただけ風に乗ってここまで来たただの偶然 偶々 あなたがどう思おうとも始まってしまったあなたの感情など構いもせずあなたの環境など構いもせず そ…

嗚呼あんなに好きだったのに

打ち捨てられた手足を拾い集め何故このような事態になったのかを考えてみる抱きしめた腕は切られてしまい押しつけたキスはもぎ取られてしまった朝から何も食べていなかったのに出る時は出るものなのね嗚呼あんなに好きだったのに拒絶される虚しさが一番堪える…